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    岩なだれの記憶――フォルムを巡る彷徨   青空阿季雄 

 

                                                                   ― zu Itoh Shizuo gewidmet   
  金属の腕をもて登る岩の肌の真東を歔欷ススリナきゆくコロナ  阿季雄

 岩のたたずまいは静かに動いた。思いがけずせかせかと隠れてゆく突起もあれば、また蔭の方からゆるり
とあらわれて来る穹隆もある。
 この岩場には人の手が入っているのに相違なかった。 ホールドと足場の大盤振舞。 自然はこんなにも多く
の凹凸を用意して人を迎えるものではない。 腹を柔軟にして貼り付いてゆこう。 体が手懸りと足場を読み解
いてゆくだろう。
 のろのろと靴を持ち上げ足場を探り左足を固定する。 左手のホールドに右手をやって左側方に体を開き、
新たに得た左手の手懸りに頼って一気に身を上方に押し上げる・・・。
 実際それは一種の解読作業であった。 足場の探り、ホールドの持ち換え、身の屈伸、果ては巌に対面す
るか、背を向けるかにいたるまで。
 チムニーやレッヂ、岩の織り成す様々な配置に身を委ね、柔軟にそして慎重に、それだけを心に置いて、
てんでに四肢を動かしていた。 するとおのずと、現れて来る岩の状態に対してこちらの取るべき姿勢はぴた
りと定まり、そうして得た確保の姿勢から、次の一歩へと、思うさま体を伸ばしてゆくことができる。
 こうして一歩一歩私のたどってゆくものがルートというものに相違なかった。しかもそれは痩せ細った岩稜
や切れ立った前衛峰ジャンダルムのふところを縫って、かすかに、だが紛れもない一筋の細糸と刻まれてそこ
にあった。
 その場その場では覚束ない試行錯誤に過ぎぬものが、岩と岩の立体配座を一筋に貫く、乾いたルートと
して彫り込まれ刻み出されてそこに伸びている・・・。
 試行錯誤の中からこのルートを辿り直す人間は、最初にここを切り拓いた男の体が取った姿勢と別の姿
勢を取るわけではない。かの男が恣ホシイママにした眺望パノラマと別の光景を目にする訳ではない。・・・・・・
 この体験は詩定型について人の繰り返す閲歴となんと親チカしい関係にあることだろう!

     この世が俺たちの見開いた四つの眼にとって、たった一つの黒い森となる時に、――二人のおとな
    しい子供にとって、一つの浜辺となる時に、――俺たちの朗らかな交感にとって、一つの音楽の森と
    なる時に、――俺は、あなたを見つけるだろう。 (A. Rimbaud)

 岩尾根の上にいて私は能を舞っていたのだと言えば人は笑うだろうか。
 「能よく出で来る」と言う。 勝負の場に身を置くとき、心身がやわらかに保たれていれば、おのずと身体は
一つの応えを演じ始める。 笛や鼓の音に誘われて、習い覚えた色々の形木フォルムの中から、その場その
場に最もふさわしい所作をまさぐり、静かにそれを演じ出すのだ。
 「物数を極めて、工夫を尽して後、花の失せぬ所をば知るべし」 想いをかけた人の前に想いを通わせた
いという願いがあった。 今様に言えば、彼女の前にキュートなスタイルをバッチリ決めたいと望む心か。
 起居行住の巡り合わせを様々に立ち居振舞い、色々に体の動きを取りながら、ようやくにして想いにかな
う姿勢を探り出すのである。 待つことによって。
 捌けてゆく想い。

 信じられぬ程、緩慢な飛翔。 雪にオレンジの紋ある焦茶の翅。 クモマベニヒカゲだ。 図譜の内に見慣ら   
わしたこれら高山蝶への憧れが、そのまま山への憬れとなった。
 蝶の飛来を待ち望むとき、自然は不思議な潤いを帯びるものだ。 倒木の腐れた林間も麓の笹原のざわ
めきも、それだけではなかった。 いまだ来ぬ蝶の飛来を秘めていたから。
 そうして今、遠く笠ケ岳の円い稜線。 頂きに羽毛のように余す雪。 けれどもそこに住まうことはないのだ
という思いが鉱質の寂しさを伝えて来る......。

 寂しさ、あこがれ、出会い。 言い古されたあの蒼古たるレジェンドを今また私は唱えようとする。 逢ふこと
が唯一確かなものでありながら仮りそめのものでしかない。 仮りそめとは、逢ふことが縁エニシに由来して
しか起こり得ぬこと、縁とは自然の根源的な構造のことだ。







・・・・


指二本懸かる岩隙クレフトを見つけたり全体重をかけて移りき  阿季雄

崩落の止まぬ礫壁レキヘキ極月ゴクゲツの凍結のみが登頂トチョウを許す