現代社会はストレス社会と言われています。心身にかかるストレスがずっと解消されないでいると、不眠症や心の病の他にも、胃・十二指腸潰瘍・高血圧症・糖尿病・頭痛・喘息・アトピー性皮膚炎・過敏性下痢症候群・書字障害・VDT(パソコン)障害・自律神経失調症・円形脱毛症などのさまざまな体の病気(=心身症)を引き起こすことは今日の心身医学の常識です。
現代は深刻な「うつの時代」と呼ばれ、人々は疲れ切っています。日本人の1年間の、自殺であると明らかな自殺者の数は、1998年以来2011年まで、14年間 3万人を超え(50歳代が最多です)、日本だけで毎日87人以上の人が自殺をし、交通事故の死者の数の6倍にのぼります。ちなみに自殺の手段として最も多いのは首吊りです。
日本人の平均寿命が現在世界一であることをご存じの方は多いでしょう。しかし、男性の平均寿命が世界一ではないことをご存じですか? 自殺者の70%以上をしめる、男性の自殺による早過ぎる死が平均寿命を引き下げているのです。痛ましいことです。日本人の死因別順位のうち自殺は近年ずっと第六位を占め、年齢別の死因として、20~39歳までは自殺が第1位を占めます。自殺でいちばんよく死ぬということです。
では以下に「うつ病」の症状をあげてみます――気持ちが憂うつ・沈みがちである・哀しい・淋しい。疲れやすい。物事をするのがおっくうである。考えがまとまらない・仕事がはかどらない。朝起きづらい。食物に味がない。性欲がなくなった。体重が減った。何事にも興味がなくなった。眠りが浅く夜明けに目覚める。午前中調子が悪く、夕方になるとマシになる。死にたくなる。情にもろい性格で気分に波がある。どちらかと言えば丸顔で太り気味である。
前述のような症状が出そろってくると「うつ病」です。「うつ病のつらさはなった者でないと分からない」と患者さんは言います。症状の程度は軽いが気分の晴れ間なくだらだらと長引き、落ち込みの原因がよりハッキリしているものを、以前は「抑うつ神経症」と呼んでいましたが、現代のアメリカ医学では神経症・ノイローゼという病名を使わなくなっており、その代わりに「うつ状態」という診断名を日本でもよく使うようになりました。これを状態診断法と呼びます。さまざまの理由で、うつ病でも抑うつ神経症でもなくても自殺をする人は数多くおり、自殺は大問題なので、精神医学でもこうした事態に対処するべく「うつ状態」という概念を作りました。自殺をする人はすべて重いうつ状態を通過して自殺すると考えます。医師はこのうつ状態を早期発見して早期治療する責務があります。
読者の中にはひょっとして、まがまがしくも睡眠薬自殺を考えておられる方がおられるかもしれません。しかし現代の睡眠薬は安全性が向上しており、胃がパンパンになるほど大量に飲まないかぎり、気がついたら病院で目が覚めた、という結果に終わることが多いので、人騒がせなことはぜひ思いとどまってください!
世の中に苦しまない人はいません。深刻な悩みであっても、解雇・倒産・失恋・入試の失敗・いじめ・個人の限界状況など、原因のはっきりした正常な悩みというものも想定できます。心の病としての悩みもあります。抑うつ神経症があり、うつ病があります。できれば専門家の目でそれらを区別した方がよいとは考えますが、机上の空論に終わる危険性があります。「理屈はともかく、早く助けてくれ!」という苦しむ人々の悲鳴が聞こえてきます。
この頃はだいぶ世間に知られるようになりましたが、「うつの人を励ましてはいけない」というのも精神医学の鉄則です。「がんばれ!」は禁句です。がんばらなければならないことは本人が誰よりもよく承知しており、いくらがんばろうとしても力が出ないで悩んでいるのです。そんな人に「がんばれ」と言うことは死人に鞭打つようなものです。
心の病に差別と偏見、否、「感情的無理解」(と私は呼びたいのですが)はつきものです。しかし、誰でもうつになる可能性があり、薬物療法と認知行動療法は目覚ましい進歩を遂げ、その治療と救いとは可能です。治ります!
苦即是空、四苦無常。 待てば海路の日寄りあり。今は八方ふさがりで、起き上がることさえできないとしても、どんなに遅れを取っていても、あなたは、いつもあなたの人生の最先端を走っておられるのです!
さあ、ゴロ~ンとしましょう、グタ~ッとしましょう。